HEROS

まちづくり
2018.11.29
no.17
デニス・チア
Dennis Chia
地方のまちと世界をつなげる マルチリンガル社長

プロフィール


デニス・チア

地方のまちと世界をつなげるマルチリンガル社長

シンガポール生まれ
株式会社BOUNDLESS 代表取締役社長

英語・日本語・中国語を操るマルチリンガル。通訳・翻訳の仕事を多数経験。現在は在日留学生を地方へ体験型学習プログラムとして派遣する「地方創生パートナーズ」を実施中。まちづくりにおいて、留学生という「新しい関係人口」の構築を目指している。

 


自分に合わないと思って転職を繰り返してた


-早速なのですが、なぜデニスさんは石巻で多くの活動を繰り広げているのか、教えてもらってもいいですか。

石巻とのご縁を最初にお話しすると、震災のとき、ちょうど大学4年生だったんですね。何かしなきゃっていろいろ悩んでいて。赤十字社に「ボランティアしたいんですけど」って電話したんですが、当時は受け入れられるような状態じゃなかった。
たまたま、当時、早稲田のボランティアセンターでボランティアの募集をしていたから、それに応募しました。その時は2011年の4月26日。たまたま石巻に入ったんです。それが1つと、その後何回かいろいろご縁があって。

ーそれはいつ頃ですか?

ピースボートでインターンを始めたのが2014年。その都合でこっちに来たり、通訳として来たり。あと大学院での研究が、災害と地域社会だったので、研究の対象地域を石巻にしたんですよね。それでまた研究で来て。

-学生の頃から色々動かれていたのですね。ちなみに卒業してからはどのようなお仕事に。

バラバラ。全部が超短くて。1年半の間で3社にいたので。1社目がベンチャー、日本の文化を海外に発信する会社で。2社目がテレビ、インターネット通販。で、3社目が旅行関係の会社。バラバラ、全部すぐやめたから何か学んだわけでもない。

-なんでポンポンやめたのですか?

自分に合わないと思ってやめたり、衝動でやめたりしたから。

-今思うと何が合わないなって思いますか?

日本の働き方は良くない、って言われるでしょ。でも今考えてみると、残業もあまりなかったし。同僚もすごい仲良かったわけでもないけど悪いわけでもない。その日本の文化とは関係なく、指示を受けてそのまま従うことが合わなかった。だから外資系でも合わなかったかもしれない。

-昔からそうだったんですか?

高校まではずっと勉強してたから、言われたとおりにやってたんだけど。日本に来てから自由奔放に旅したりアルバイトしてたから。自由にやらせてもらってたから、それがあるかもしれない。あとなんだろうな、野望が大きかったんですよね。

-野望が大きい。

野望が大きいっていうか。なんだろ、大学生のころにテレビにも出たりしてたから、自分にはできることがいっぱいある。まあ簡単に言うと調子に乗ってたかもしれない。

-テレビに出たりして調子乗ってたかもしれない。

そうそう。で、色んなことやって、会社に入っていきなりなんで従わないといけないのって。


世界の見え方が一変した個室3畳のシェアハウス暮らし


-その野望はどうなっていったのですか?

会社をポンポンと転職した後、1年間フリーターになったんですよね。フリーターになって、その後大学院に入った。

-社会人と大学院の間にフリーターがあるって感じですかね

そうですね。その時はなんかすごい、落ち込んでた。本来ならもっとキャリアを積み重ねている時期なのに、自分だけなんか落ちこぼれたみたいな。その後にすごく小さな家に引っ越しをしたんですよね。そこの経験が大きかったなって。

-小さな家に引っ越した事が。

そうそう。シェアハウスなんだけど8人ぐらいで住んでて、まあ共用のリビングとキッチンとお風呂あるけど、自分の部屋は3畳しかなくて、で窓がない。そこに3年間住んでて。そこで出会った人たちに刺激を受けた。これまでの人生は早稲田、東大みたいなそういう優秀な人としか会ったことがなかったんだけど。そのシェアハウスには、地方から上京して挫折してニートになって、毎日何もせずに暮らしてる人がいて。そういう人たちに会ってそういう暮らし方もあるんだなって思って、すごくおもしろかったですね。初めてと言っていいぐらい、自分と違う人生を送ってきた人。ニートだったり、フリーターだったり、話をするとすごく面白い。そこで結構変わったかもしれない。

-そこで今までと違う価値観と触れることができて、野望も変わった。

野望は変わってないけど、やりかたを学んだっていうか。わかりやすい話をすると、シェアハウスで起きた1つの出来事が印象に残ってて。当時は全然起業する気はなくて、国連や国際機関の研究をしてたんだけど、その話をシェアハウスでしたら、「国連って何?」って。国連の説明をしようとしたんだけど、説明の仕方がわからない。簡単に言うと、自分は世界を変えようと思って国連に入ろうと思ったけど、普通の人に国連の話が通じなかったら意味ないじゃんと思って。なので、国連に入るのは別に悪くないけど、まず、いわゆる多数の人たちに話が通じないと何も変わらない。地方創生もそうだと思うんです。行政に入って、政府に入って、地方創生をやろうと思ってても、普通の人に話が通じないと何も変わらない。

-今までの思い込みに気付けたっていう感じですかね。

そうですね。国連を説明しようとしたら、デニスは東大だから知ってるんでしょ、みたいな、東大の人しか知らないようなものだと思ってた。彼は高校卒業してすぐに働いたから、あんまり教育レベルでいうと高くないというのもあるかもしれないけど。なんかすごく面白い人だった。

-フリーター期間、3畳の家に引っ越しをして、今までとは違う世界にはみ出したことによって、今までの世界を客観視できたのですかね。

そうですね。


国連は法律を変えられるけど人々の生活は変えられない


-世界をどう変えたいっていうのはあるんですか。

仙台で行われた防災会議で通訳をしたときに、ある人に痛いこと言われて。彼が言ったのは、災害はサイクロンや洪水など色々あるけど、本当の災害は貧困問題。富裕層は災害にあっても被害は出ない。本当に被害が出るのはそもそも貧困層の人。本当の災害とはそこにある。防災って言うけど、貧困問題を解決しなくてはいけない。その話が印象に残ってて。国連では法律を変えられるけど、根本にある問題は変わらないんですよ、人々の生活とか。なので、世界を変えようと思ったら両方やらなくてはいけない。政府レベルと市民レベルで。

-政府レベルで決まり事を変えていけば世界は変わると思っていたけど、これまでと違う人と会った時に、まちだったり市民を変えていくことが必要だと気づいた。

言われてみれば、東大とその3畳の家の格差が面白かったのかもしれない。

-すごいはみ出し方というか。これが、逆に今の活動につながってたりするのですか

そうですね。なんかむしろ、政府レベルはそれでいいかもしれないけど、政府レベルのことが分かる人は凄く少数派だと思うんですよね。だったら、多数の人を変えたほうが社会は変わると思って。

-多いですもんね。

そうそうそうそう。こちらの方が面白いと思えてきて、だから政府レベルだとか、法律を変えるとか、自分に合わないかもっていうのがあるかもしれない。もっと人と接したいから。

-市民と一緒に変えていく方が面白いと思った。

変化も目に見えてくると思うから。

-今の活動だと実感できたりしますか。

そうですね。一番実感してるのは、日本人でも外国人でも会社や政府の人と話をする時に、地域に入り込んでいることが面白い、と言われる。自分の特徴は、ネットワークが広いことだと思ってた。つまり、彼らはつながりがないってことですよね。地域とつながりがないから僕がこういうことやっているのが面白い。なんで深く入り込もうとしてるのかと。

-そう話したのは地方の人たちですか?

いや、東京。なんでそんなに石巻に行くの、みたいな。霞が関にいればいいじゃんみたいな。東大出身だからなんかこっちでしょって。

-なんで地方創生って言ってるのにこっちに来ないの、っていうのと、なんで君はそっちの地域に深く入り込んでいるのと。

そうそう。

-デニスさんのこれまでの体験が形作っている現在ですよね。一回、外にはみ出したからこそ、そういう動き方ができるようになっている。

そうですね。フリーターになって、監獄みたいなシェアハウスに入ってよかったなって。

-本当に逆ですよね。監獄は社会から孤立してクローズな世界じゃないですか。今まで目指したのが国連というオープンな世界。クローズとオープンを行き来したことによって、視点の幅が広がったんでしょうか。デニスさんの必殺技にもつながる部分ですかね。

一言で言えばコミュニケーション。国を問わず、政府の人とか一般の人、漁師さんでもいいけど、問わず話ができることかな。

-まさにボーダレスですね

ボーダレスですね。

-必殺技がボーダレス。ボーダーを越えることによってボーダーを超えられる人になっていく。つまりコミュニケーションができる。ボーダレス。会社名にもなっている。

そうだね。


お金を稼ぎながらも目指してきたことがブレないように


-過去を紐解きながら、必殺技が確定しました。市民とコミュニケーションを取りながら一緒に変えていく方が面白いと気付いたと思うのですが、逆にその上での葛藤だったり、辛いなって思うことはありますか。

やろうとしていることが社会的にはいいかもしれないけど、ビジネス的には難しい。そこが一番の課題ですよね。

-ビジネス的には難しい

これをビジネスにするのは難しくはないかもしれないけど、そうすると自分の目指してきたことがブレてしまう。だから、どっちをとるかっていうか。

-利益と社会的な課題解決のバランスが難しい。

そうですね。

-BOUNDLESSは株式会社ですよね。目的として利潤の追求じゃないですか。なぜ、NPOなどの法人を選択されなかったのですか?

理由は2つあって。1つは誰かに頼って事業をしたくない。助成金に頼ったりするんじゃなくて、自分で金を稼いでいく。そこは父親の影響もあるんだけど。昔は彼もビジネスをやっていて、言われたのが、今は頼ってもいいが将来的にはビジネスとしてやっていくべき、だから株式会社の方がいいと言われたのでそれが1つ。

-誰かに頼ってビジネスしたくないなっていうのが。

1つ。で、もう1つがビザの関係。経営ビザを獲得するため。一般社団法人でもいいかって思ったけど、当時は違いもあんまり分からなかったし、株式会社なら安全っていうことで株式会社にした。正直、ビジネスの経験がなかったから、知識もなくて、株式会社でも社会的なことをやってると思ってた。でも、株式会社を見るとすぐに利益のことを連想する人が多いっていうのを始めてみてから気付いた。自分の中ではどうでもよかった。株式会社だろうがなんだろうが。

-やはり、社会的って言うとNPOの方がイメージしやすい。株式会社はガンガン利益をっていうイメージがあります。どちらにしても、問題解決と持続可能のバランスはみんな悩んでいますよね。デニスさんも悩んでる。

悩んでますね。


石巻という学びのある街に人を連れてきたい


-ただ、地域で活動するっていうことに関しては楽しくされているように感じます。

楽しいですね

-石巻はどういう風に見えているんですか?

すごくベタな答えだけど面白い、本当に面白いまちですよね。最近入ったインターンの子に言われて気付いたんだけど、自分の中で石巻は面白いまち、なので、石巻のことを知らない人に話をするときに、詳しく話をしない。石巻で活動してますっていうと、みんな疑問に思っちゃう。被災地じゃん、みたいな。すごく色んなことが起きている石巻が面白いのに、それをそこまで触れずに話をしちゃう。

-やっぱりいろんなことが起きてると思います?

他のまちとは全然違う。そういう意味ではすごく可能性があると思ってて、もっといろんな人が訪れるべき。一言で言うと観光かもしれないけど、観光っていうとバスで来て買い物して帰るみたいなことじゃなくて、人が訪れる価値がある場所だなって。色んなことが学べるし。石巻で面白いことが起きてるっていうのをもっと伝えたい。

-なるほど。ただ、石巻で活動している人は、そう思ってなかったりする。

そうそうそうそう

-そうか。デニスさんは石巻から何を学べると思いましたか。

イノベーション。革新的なことをやってる人が多いから、しかも、課題を解決するために今までにないことをやっている。地方でITを教えるっていうのもそうだし、ガレージを改造してカフェにしたり、石巻で作る家具とか、漁師のプロジェクトとか。こういうのはほかの地域、国も学べることだと思うので。

-この面白いと思ってる石巻で活動しながら、ヒーローとして今後どういう風な未来というかビジョンを達成していきたいと思っていますか。

短期、中期でいうと、外国人とか外国人留学生とかを石巻で、1ヵ月か2か月長期滞在するような場をつくりたい。それは仕事してもいいし、仕事しながら交流するような、地域インターンシップみたいな。そういうのを作りたいなって。もう1つが、留学生向けにやっていたプログラムを、誰でも参加できるようにしたい。

-ワークショップツアーをやっていきたいと。地域インターンシップはどういうものですか?

地域インターンシップは、何かできるのかを試していました。連れてきた人を自由にさせてどういう結果につながるかっていう。実際に新しい人がいることで何が変わるのか、石巻が。結果、まちの皆さんとの関係性が自分が思っていた以上に深まっていて、ビジネスにはつながらないけど、地方創生、まちが元気になるっていう良い点もあるなって。

 

-新しい人とのかかわりは、新しい風を入れてくれる感じがあります。ボーダレスって穴が開く、もしくは飛びこえてくる、換気が起きるっていうか。窓があった方が気持ちいいですよね。

窓がなかったら苦しい。

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