HEROS

まちづくり
2019.2.15
no.23
天野 美紀
amano miki
建物と人を結ぶ地域密着型の建築家

プロフィール


天野 美紀
amano miki

建物と人を結ぶ地域密着型の建築家

埼玉県出身。二級建築士事務所「A-MANO DESIGN」代表。住宅診断「さくら事務所」ホームインスペクター。犬と人の豊かな暮らし「犬楽園」事務局。犬と泊まれる民泊「かめハウス」ホスト。

 


小さい商いってこりゃ大変だなって思ったんですよ


 

天野さんは最近どのようなことをされていますか。

経営していた飲食店が2016年に終わり、ちょうど2年経ちました。有名になって、お客さんもたくさん来てくれたけど、朝ご飯営業だから経営も大変。利益を出しづらくて、半分ボランティアでやっていました。震災後数年はそれでも良かったけど、だんだん必要性もなくなってきて、ちょうどいいタイミングでカフェ蓮さんがあの場所でやりたいと言ってくれたので場所を引き継ぎました。3年9ヵ月営業したけど、飲食店として大きくしたいとか、それをずっとやりたいわけではなかった。役目をある程度終えて、お店がある富貴丁通りの空き店舗がなくなる状態まで見届けて、身を引きました。

建築設計の仕事から、飲食店の経営。とても大きな変化ですよね。

今まで客商売をやったことが、バイトを含めてありませんでした。建築設計の仕事は、技術に対してまとまった対価を貰うので、日銭を稼ぐみたいな感覚がなかった。人件費や経費があまりかからないフリーランスで、のほほんと仕事していたので、飲食店という業態の難しさを初めて知り、カルチャーショックでした。人を雇ってお給料を払うけど、お店を開けたからって必ず一定の収入があるわけではない。お客さんがゼロでも給料を払わないといけないし、原価はかかる。小さい商いってこりゃ大変だなって思ったんですよ。それまで知らなかった。

商売を実際にやってみて気づかれた。

地域の賑わいを生むために、小さい商いやる人たちを街に増やそうということもやっていましたが、店を増やすだけでなく、お客さんをたくさん呼び込んで、彼らがしっかり潤うような流れを作らないといけないなと思い始めました。石巻でも、大きなイベントがあるじゃないですか。たくさん人が来てくれるのはいいのだけど、どうも地域の人たちとの温度差があって。それは経済効果があんまり感じられないからかなと。その根底にあるのは何かなと考えたのですが、せっかくイベントがあっても、街中の滞在時間がすごく短いからではないかと。宿が足りないから、結局仙台に泊まったり、松島に泊まったりする。彼らがお金を使うのが違うエリアになっているんですよね。そうすると、イベント主催側は頑張って成果を出してるのに、地域の人たちからは冷たい目で見られるというギャップが生まれてしまう。

ここ最近のイベントでも、そのような構図が多かったですね。

そのギャップを埋めるには、滞在時間を増やす策が必要で、やはり街に泊まってもらうことが重要。でもホテルは数が限られてるし、ホテルを増やすというのは通年で考えると現実的ではない。そこで民泊。既にある空いている部屋にお客さんが滞在して、滞在時間を延ばすことで街でお金を使って貰う。かつ、住んでいる家に迎えれば、自然と地元の人と知り合うことになる。民泊のゲストとホストという関係なので、当然親しくなりやすい。他のホテルに泊まるより、ホストを通して街についての理解も深まるし、震災当時の話を聞いたりもできる。石巻に友達ができて、また来てくれるという流れも生まれます。これからの観光業を考えた時に、石巻以外の地域もそうですが、リピーターが生まれるサイクルを作るのが重要だと、自分が商売をやってみて気が付いたんです。


石巻でまだやれることが民泊を含めてありそうだから


 


天野さんは他の建築士の方々とは圧倒的に何か違うなと思いました。天野さん足りえる要素はなんだろうなと。飲食店の経営後についてはどのような方向へ?

震災をきっかけに経験もない飲食店を始めちゃう時点で、イレギュラーな人間ですね。移住もそう。日和キッチンのミッションが終わった時に、当然、東京に戻る選択肢もありました。1年ぐらいリセット期間を設けて。これからどうしようか、石巻でやれることがあるだろうかと、悶々と考えていました。そして私が石巻でまだやれることが民泊を含めてありそうだから、残ることを決めたんです。石巻の交流人口を増やすため、民泊事業を進めるためには建築的な知識も必要。まだ役割があるなと。そして腹をくくって、石巻で二級建築士事務所の登録をして、まずは自分自身で民泊を始めました。

悶々の時期を経て、新たな自分の役割を見出だし始めたのですね。

今は石巻に根を下ろして、本業の建築設計の傍ら民泊をやっています。しかし実は、おしゃれな設計とか意匠に拘ることには今はあまり興味がなくて。そういう仕事は東京でさんざんやったし、私以外にもプレイヤーが沢山いるからもういいかなと。DIYも特別な人だけがやることではなくなってきていて、皆が自分でデザインできる時代になって来ましたよね。

そうですね。

自分たちでデザインしたい、世界観を作りたい。でも彼らがその世界観を作るにあたって、自分ではできない部分があるんですよ。図面を描くとか、耐震補強とか。そういった専門知識や技術がどうしても必要な部分だけアシストすることも多いです。まるっとまかせなさい、私がデザインしましょう、かっこいいでしょう、ではなくて。それぞれ個々人が持っている世界観の方が個性的で面白いので、それを形にするためのお手伝い。もう一つ力を入れていることは、空き家をなんとかすること。実はこの家の周りも空き家が多いんです。隣も荷物はあるけど住んでいない潜在的空き家。復興住宅が完成して、みなし仮設で埋まっていた家も空いて、どんどん空き家が増えています。

空き家が多い。

復興住宅ができたことも一因ですが、震災後の特需で物件が足りない時期に、せっせとメーカーさんたちが新築アパートを建てて、今はもう飽和状態です。古い物件や条件がちょっと悪い物件は入居者が見つからない。空き家の増加は、なにも被災地だけではなく日本全体の問題で、私も自分のミッションとして、石巻の空き物件の流通活性に取り組みたいと考えています。格好良くリノベーションしてシェアハウスにする方法もありますが、それはそんなにたくさんは必要ないと思っていて。残す方が大変なことも多いから、壊すべき空き家、売却すべき空き家もあるんです。そういう所は目利きが難しい。持ち続けるにしろ貸すにしろ売るにしろ、色んな選択肢があって、こういう場合はこういうリスクがあり、こういう投資が必要になりますよとか。色々な例を並べてちゃんとオーナーさんに説明できる専門家はとても少ないと思います。

天野さんのこれまでの設計の仕事であれば、単発で利益を得られると思うのですが。今されているアシストやアドバイスとなると、関係性が長期的になりますよね。こちらの方が骨が折れる作業が多いというか。

骨が折れるけど、それを誰かがやらないと物件の流通が活性化していかない。不動産屋さんや持ち主さんだけでは判断が難しい部分です。きちんと第三者的な視点を持って、物件の価値を見極めて、的確なアドバイスを出せる。フラットに対時できる専門家が必要だと感じています。


物件が活発に流通する土壌を作らないと、地域がどんどん衰退していきます


建物設計からテナントの利用者側になったからこそ、そういう部分の視点が増えていった。

そうですね。日和キッチンのあの建物も、震災前から10年以上空き家の状態だったそうです。建物は使われないとどんどん劣化していきます。日本の建物は特に人が住んで空気を入れ替えて、こまめに手を入れていないと簡単に廃墟になってしまう。単純に私は建物が好きなので、良い建物はきちんと活用して、より長く存続できるように手を加えて残していくべきだと思うし、逆に危険な建物はなるべく早く壊した方が地域の為空き家が多いとエリアの価値下がってしまいます。空き家がなくなるように、物件が活発に流通する土壌を作らないと、地域がどんどん衰退していきます

生態系のイメージが浮かびました。終わらせたり、手を加えて活性化させる。

好きな地域が、いい状態で長く存続してくれたら嬉しいですよね。自分が暮らすエリアの価値が下がっていくのを、何もせず手をこまねいて見ているのは嫌なんです。だから私が嫌いなのは、有名な建築家や著名人がコミュニティのことをるシーン大きなイベントや都市計画で、コミュニティが生まれる場所を作ろう提案してきますが、その本人は自分のご近所さんとお付き合いしているのか、自分のエリアのことをやっているのか、疑問が沸きます。すごい矛盾を感じてしまう。色々語るのだったら、まず自分の家をちゃんとすることと、自分自身が住んでいる地域と繋がることを実践して欲しい

メディアの話だと、フォロワーを増やすコンサルみたいな専門家がいて、その人はフォロワーがいないみたいな。実践者の説得力が違うなと思いました。

事例をひろったり、誰かの言葉を引用したり、研究して成果を語ること。例えば大学の教授であれば、広く伝えることが仕事だからいいと思うのですけどね

天野さんは石巻に来て生活した結果、その目線が地域に降りてきた。

東京の最先端のアトリエ事務所やリノベーション事務所に身を置いていたから、日本の建築業界の中心に私たちはいる、と思いあがってました。会社で手掛けた作品が有名な雑誌表紙を飾ったり、賞を貰ったり、そういう世界にどっぷりだったから。東京にいた時は見えなかった物事が、石巻に移住したことで見えてきて、自分の役割も輪郭がはっきりした気がします。石巻の規模だと街の全体像や問題も見えやすいし、私一人でも影響できることが沢山あると感じます

問題が見やすい、面白いですね。

例えば、この家から見える所に空き家があって、それがある日、売りに出たんです。前々から良い建物だなと眺めていたので、中古住宅を買いたい相談をしてくれていた友人に早速紹介して。そうしたら予想通り気に入って下さって、無事に購入が決まり、もうすぐ引っ越して来ます

それは天野さんが紹介したのですか。

知り合いの不動産屋さんが仲介されていたので、そちらに相談してカギを預かって、私が立ち会って内見しました。一緒に見ながら改修にかかる費用などもアドバイスしてね。そうやってご近所の空き物件をじわじわと埋めているんです。この物件はオススメみたいな物件情報をSNSでシェアして、私なりの目線でオススメポイントを加えて伝えると、ピンと来た誰かが住んでくれるかもって。

勝手に仲介、みたいな感じですね。

勝手に仲介をしています。いい物件だけですけどね。自分が見て、これはまだ残すべき、生かすべきと思える物件。あとは、趣味に合う人が私の交友関係に居そうだなと思う物件

目利きが生きているんですね。少し話が戻って、使わないとどんどん悪くなっていくという話がありました。人と山の関係みたいだなと。

山とも似ていますね。放置すると荒れる一方。

人間の手が加わった方が結果的に山が元気になる。

手が入って日が差せば山も元気になるし、人も循環する生態系の一部ですよね。それが海の栄養になり、巡り巡ってまた山に還元される。

日和キッチンがある富貴丁通りのときからも、天野さんはそういう存在のように見えていて。今の話を聞いていても。

循環を生み出そうとしていますね。澱んでしまうとなんでもそうですけど腐ってダメになってしまう。循環させるにはかき混ぜる人がいないといけない。


まさにお見合いです、人と建物のお見合いおばさんです


 

この辺りの話から、天野さんの必殺技が出てきそうなのですが。

やっぱり根底にあるのは、建築業界に20年いるので、建築の専門的な知識というか建築オタクな部分ですね。私は物件に興味があるんです。要は建物が好きなんですよね。

オタクということは、好きとは違ったちょっとした偏りがある。

ちょっと変態っぽい大工さんのこだわりとか癖みたいなのがにじみ出ているのを見てニヤッとしてしまう。この人、ここにこだわったんだ、フェチだなって。新しいものよりも誰かがこだわって作った物とか長く使われ続けてきた物とか、そういうものが好きですね。誰かが愛でている何かに、私も共感して愛着を持っちゃいます

それはやっぱりオタクですね。

誰かが住んでた痕跡に愛を感じます

変態ですね確かに、痕跡に愛を感じる。

からそういう思いや念が感じとれないものには、今はあまり興味を感じないかも。新築ピカピカの、エッジの尖ったものに興味を持っていた時代もありましたけど

建築オタクというのは性質だと思うのですが、技に落とし込まれたときにはどうなっていくのでしょうか。

マッチングみたいな感じでしょうか。が良いと思う建物に多分住みたいと思ってくれる人を、自分のネットワークで繋げられるところかな。交友関係がとにかく広いので、大家さんや不動産屋さんとも繋がりがあり、その繋がりの中生み出せた技だと感じています。マッチングいうより結ぶ作業。

確かに結んでいますね。

まさにお見合いですね。お見合いおばさんです。

仲介という言葉が出た時からイメージがありました。世間のお見合いおばさんたちはこれまでの人生の経験者として、情報や知識がある。

20の私にはできないと思います。人のこともあまり分かってないし、建物のことも知識不足で、自信をもって結び付けられないと思う。今は建築や不動産知識もある程度のところまで持っていて、人の繋がりや信頼関係も持っているからこそできる技。加えてずうずうしいことも言える年齢になったので、まさに人と建物のお見合いおばさんです。マッチングだと格好良すぎるからお見合いおばさんがしっくりきますね。

お見合いおばさんとして逆に難しさだったり、悩みのようなものを感じることはありますか。

見合いおばさんを、もう少し自分の仕事として位置付けられたらいいなとは思いますね。ただ仕事にしないから面白くやれる部分もあります。ご近所に信頼できる友人たちが住んでくれたら、エリアの価値上がる以上に、私自身の人生が豊かになります。自分と愛犬が、楽しく安心して、長くこの地で暮らしていくための壮大な種まきでもあるですから、単純な利益は求めていないのですが、もう少しやっている事を分かりやすく表現できると良いなと思います。建築や不動産の枠から外れてしまっているもので

ちょうど、間のようなことをされてるからこそ。

まだ仕事や言葉として確立していないので、自分がやっていることの説明の難しさを感じます


建築家がちょっと手を出して、まちが良くなるようなことっていっぱいあるんだよ


間の状態は不安定ですもんね。民泊も含めて、言語化されていない取り組みについて、近い将来どういう風にしていきたいか、改めて聞いてもよろしいですか。

建築の専門的な知識を建築分野以外にも生かしていきたいです。建築家というと建物を設計する人、デザインする人というイメージが強いですが、建築家が担うべき役割やできる事はもっとたくさんあって。建築家がちょっと手を出して、まちが良くなるようなことっていっぱいあるんだよと、まだ気が付いていない人には伝えたいです建築を作ることだけやってればいい訳じゃないんだよ私たちの未来を良くするために、それぞれが地域を豊かにすることを考えなくてはいけないし、やらなければいけない。それこそ、建築家が先頭きってやるべきことではないかと。

戻るということなのでしょうか。本来ということは、建築家はそもそもエリアを考える人。

既存住宅の建物診断を最近仕事としてやり始めたんですけど、解りやすく言うと地域と建物のかかりつけ医みたいな存在を目指しています。元々は大工さんがそういう存在だったので、ある部分戻るのかもしれない。

最終的にお見合いおばさんが地域のかかりつけ医になっていくかもしれないという。

何か困ったらとりあえず相談しようって思えるような人偏った業界目線ではなく、利害関係なく、フラットな意見を言ってくれる人に相談したいですよね。思い込みや個人的見解ではなく、専門知識を持ってバランス良くアドバイスできる人が増えるといいなと思います。私が出来る範囲は限りがあるし、いなくなったらおしまいでは循環が続かないので

結果的によろず屋というのがすごくイメージが湧きますね、とりあえず相談しようと。

家を探しているとか、空き家があるけどどうしようとか、とりあえず天野さんに言っておこうと思ってくれればあとは頭にとどめておいて、タイミングが来たらすかさずセッセと結びます。あの物件とあの人は相思相愛かなって

気持ちいい感じがします。結び。何かありましたら相談させてください。ありがとうございます。

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