HEROS

2019.3.1
no.26
近江 瞬
Ohmi Shun
まちなかの短歌ムーブメント仕掛人

プロフィール


近江 瞬
Ohmi Shun

まちなかの短歌ムーブメント仕掛人

石巻出身石巻在住/早稲田大学文化構想学部卒/石巻の若手短歌集団「短歌部カプカプ」部長/塔短歌会所属/61回短歌研究新人賞佳作/第1回笹井宏之賞最終候補/石巻日日新聞記者


自分たちの部活が作れるという話があったから、短歌部を作りましょうと。


 

近江さんの最近の活動について教えてください。

短歌に4年程前から打ち込んでいます。その間も「石巻の若い人で他に短歌をする人はいるのかな」と思いながら、一人でやっていました。ある日、インスタグラムで短歌を詠む人が石巻にいることを偶然知って。こんなに近くにいたのかと驚いた。それでアプローチしようと思って、2018年の510日に中里のドトールで会うことになりました。石巻市中央にあるCommon-ship橋通り(以下コモン)で自分たちの部活が作れるという話があったから、その人に「短歌部を作りましょう」と持ち掛けました。一緒に短歌を楽しみましょうという感じですね。その人が今、短歌部で副部長をしてもらっている千葉楓子さんです。

一人でされていたとのことですが、今までは石巻で短歌を詠む人とは出会わなかった?

記者としての取材で例えば地域の短歌会とか短歌をしている方と出会うことはあったけど、自分のプライベートでしかも若い人だと、その時が初めての出会いかな。短歌の世界には短歌結社と全国的な組織があって、そのうちの一つである塔短歌会(以下塔)には入ってました。塔は会員が全国に1000人ぐらいいる結社。そこでは歌を詠む人もいっぱいいるし、それはもちろん仲間なんだけども、仙台の塔の歌会とかには休みの関係上なかなか顔を出せなくて、当時はつながりといってもそんなにはあるという感じではありませんでしたし。

その後、現副部長のふうこさんと出会って、部活を作ろうと。

部活を作ろうとした理由として、いちばん大きかったのは、短歌とはあまり関係はないけれど、石巻でいろいろな文化活動を仕掛けている矢口龍太さん。彼がコモンの最初の部活として「ロマンチック文化人類学部」っていうのを作った時に、本当は「矢口さんに誘ってもらえるかな」と思っていたんだよね。文化人類学は「文」が入っているから短歌もコンテンツの一つにはなるんじゃないかって。だけど思いの外、矢口さんは頑なに入れてくれない。後から考えればそれは親心的な感じだったんだろうけどね。それではてさてどうするかなと。人を取りまとめることに対して、自分はあまり得意だと思ってはいなかったんだけど、結局、せっかくなら自分で作ろうと思って作ったんだよね。

人を取りまとめるのが苦手なのに部活を。

誘ったからにはやるっきゃないからね。言い出しっぺ。部活を作れば継続的にみんなと会う理由にもなるし。今、部員が新入部員と仮入部も含めると8人。年齢は下が17歳で上は35歳。正直、こんなにみんなが興味を持ってくれるとは思ってもみなかった。

会う理由ができるのは大きいと感じました?

例えば、楓子さんに「今度、いつ会えますか?」と言うのは男女っていうこともあるし、ちょっと変だなと。お互い結婚もしてるし。でも、部活という理由であれば予定を合わせることへの心理的ハードルも下がる。それに「部活」という枠組みでなかったら初心者の人を巻き込むのも相当難しかっただろうなって思う。

部活という枠組があるからこそ。

コモンで部活という枠組みを提示してくれたことは大きかったと思う。それとネーミングとして、「短歌部」と「短歌会」があったとしたら、やっぱり短歌会はなんか敷居が高い感じがする。短歌初心者にも挑戦してほしいし、親しんでほしいわけだから、そこが「部活動」というワードチョイスは良かった。学校の部活動なんて多くは初心者でスタートするイメージもあるんだろうね。


街に元々ある文化活動、これからは誰がやっていくのだろう。


 

部活の入りやすいイメージは、展示や部誌に反映されていると思いました。最近でも興味深かったのが、参加型の部誌です。

短歌は基本的に個人の活動で、それぞれが描きたい世界や身の回りの生活を歌にするから、本来は周りとの密接な関わりはいらないジャンル。もちろん歌会とかで技術を磨くことは重要だけど、最終的に作るのは個人だよね。だから、極端に言えば展示会とか部誌は、短歌としての本来の活動ではない。「それじゃあ目的はなんだ」と言われると、短歌に触れたことのない若い世代ははじめとして、より多くの地域の人たちに「短歌って面白いよね」ってことを知ってもらうためのパフォーマンス。みんなに楽しいと思ってもらうには、歌を詠んでもらわないと始まらないから。例えば部員だけの作品を展示して「短歌部の展示が面白い」となったとしても、その人は詠まないんだよね。だから最初からいろんな人にお願いして詠んでもらうことにしました。やれば楽しさは絶対に伝わるから。

方法として部誌を選んだ理由は?

個人的に本が好きで本棚にストックしていきたいから。やっぱり、実際のモノがいいよね。印刷する枚数が多いから費用はかかるけど。その分、手に取ってくれたみんなの身近にずっとあり続けられる。みんなの本棚に一冊でも短歌の本があるなんて素敵だと思う。

そのモチベーションはどういうところから?

自分の作品も評価されたいから自己顕示欲ももちろんあるよね。どうせやるなら認めてもらいたい。まちの人から始まって、最終的には外の人にも見てもらいたい。先日の展示の時には女川や仙台、登米からわざわざ来てくれた人たちもいてうれしかった。

まちの人というと、それこそ近江さんは、まちの公民館にも出入りされていますよね。

元々長く短歌をやっている人たちもいて、その人たちを無下にはしたくない。僕らは現代短歌で、皆さんは生活短歌、みたいな線引きをしたくないじゃない。同じく短歌を好きでやっている仲間だと勝手に思っていて、なんとかつながれるように努力は続けたいんだよね。そうなると、日本舞踊や華道や茶道などの街に元々ある文化活動についても、これからどう継承していくのだろうとか考えちゃって。なくなってしまったら悲しいし。それは短歌も同じで、そこまで自分たちが考える必要はないけど、どうにかしたほうがいいよなって。

それは短歌部を始めてから思うようになってきた?

そういったことも含めて考えていけたら面白いなと思うようにはなったね。僕らのほかにもジャンルは違えど、みんなそれぞれにそれぞれの趣味嗜好で部活動が生まれていて、だけど今は一個一個が同じ部活動と言えどバラバラ。横のつながりを含めて、この枠組みをもっと広く考えたほうがいいと思う。今の年配の方々だと文化協会があって、いろんな文化が生まれて、まとまってきた。じゃあ、自分たちはどうするのって。ここまで来るとまちづくりの話になってしまうけど、若い世代も含めた文化的活動がつながることでまちに与える影響は実際あると思うんだよね。

まちに与える影響。それこそコモンで展示された時に新しい風を感じました。ここ石巻から生まれているという感覚。

みんなね、「短歌」という言葉は知っている。でも短歌に触れることは99%ないといっても過言じゃなかった。でも触れたら面白い。触れてもらえば楽しさには気づいてもらえる自信がある。だからこそ、待っているだけではしょうがないなと。

確かに触れることはなかったかもしれません。だからこそ、多くの人を誘っていったその原動力がすごいなと。

僕は「短歌は面白い」ということを絶対的に思ってるから、「楽しいから交ざってよ」って誘っちゃう。あとは職業柄、普段から地域の付き合いがあるから誘いやすいのもあるかな。いざ詠んでもらうと面白いんだよ。男らしい人が意外と可愛い歌を詠んだりするから。

その人の頭の中を覗く感じですね。

特に初めて詠む人は必ず自分に寄せて詠んでくれるからね。


自分は文化的活動自体が地方の生きる術だと思っているの。


近江さんの言葉への感覚はどこから生まれてきたのでしょう?

昔から作文が好きだった。「算数すごいね」と言われて算数が好きになるみたいなことがありますよね。そんな感じで小学生の時、読書感想文の県のコンクールで特選をもらったのね。しかも兄貴も同時に。ということは本当は、お母さんの文才のおかげなんだけど。でも、自分の自己肯定にはなるでしょ。だから、文章を書くのが好きになった。あと、おじいさんが物書きだったし、おじさんも編集者だし、言葉の世界に対する漠然とした憧れはあったと思う。

自分はどんなヒーローだと思いますか?

愛がでかい。めっちゃ人が好き、人に興味ある。だから人を愛したいし愛されたい。人見知りだけどね。

だからこそ、人に詠んでもらいたいという欲求があるのですね。愛のヒーロー。愛がでかいヒーローは、どういう技がありますか。

巻き込みたいというのはある。

誘っていく。セクシーですね。愛がでかい近江さん、これからどういうことをやっていきたいですか?

部誌と展示については続けることに価値があると思っていて、飽きてくることもあるかもしれないけれど、やり続けるのが大事。あと、展示とか部誌に合わせて地域の人に短歌に挑戦してもらってはいるけど、継続してもらうのは難しい。だから、もっとみんなが日常的に詠みたくなるようにしたい。例えばそのために短歌教室なんかもやってみたいなって思う。今度、新しく入部した子は24歳なんだけど、実は僕と同じように一人で短歌を2年くらいやっていて、こうやって活動していると自然と集まってくるもんだなって思った。最終的には10人くらいにしたいし、高校生が3人くらい集まって短歌甲子園っていう全国大会とかで優勝してほしい。あとは個人としては総合誌の短歌賞が欲しいですね。他の部員に取られる前に。部長としての面目が立たなくなっちゃうから。

少しずつ短歌に触れる機会が増えていきますね。まちを歩いていて、短歌というワードが聞こえてくるようになって実感しています。

外に開いて見せ続けることで変わるって思った。こうやって短歌が街に馴染めばいいなって思う。

馴染む、素敵な感覚ですね。

だって普通に生きてたら、短歌の楽しさを知らないまま人生を終える可能性だって多くあるわけで。でも僕らの活動を通して少しでも人生のわずかな時間でも短歌の楽しさに気付いてほしい。街中では前は「短歌?」って感じだったけど、今は「短歌ね」ってなってきたから。本筋からずれるけど、自分は文化的活動自体が地方都市の生きる術だと思っているの。仕事対仕事だと選択肢に満ちた都会にはやっぱり勝てないから。それじゃあ、どうやって勝つかというと、文化的活動だと思うんだよね。今は高校生や大学生のインターンシップが多くあるけど、仕事はもちろんとして、彼らに大人のB面を見せてあげるというのも大事なんじゃないかなと思う。

大人のB面。刺激的な街になっていきそうですね。今後の活動も応援しております。ありがとうございました。

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