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2019.3.26
no.32
日野朱夏
Hino Ayaka
お茶と共に温もりの輪を
広げるお茶屋の三代目

プロフィール


日野朱夏
Hino Ayaka

お茶と共に温もりの輪を広げるお茶屋の三代目

1992年生まれ/石巻市出身/石巻市在住/A型かに座/実践女子短期大学日本語コミュニケーション学科出版編集コース卒/お茶のあさひ園/日本茶アドバイザー/粘土と押し花の講師


「畑違いの会社を経験しないとお茶屋を継がせない」と父に言われて。


 

日野さんはUターンをされたんですよね。高校を卒業した後は県外に?

はい、東京で出版編集の勉強をしたくて。東京の学校に行きました。

出版編集に興味があったんですね。

本がとても好きで。特に紙の質感が好きだったので、小学生の頃から雑誌を買う時に紙で選んだりしていたんですね。好きな服の雑誌だけど、紙が微妙だから買わないこともありました。

勉強した後は出版業界に?

出版系の企業の採用試験をいくつか受けたのですが、なかなか決まらずで。フリーターをしながら再度チャレンジしようかと考えていましたが、まずは就職しようと思って。自分の高校卒業の年に震災が起きて、実家も全壊していたこともあって、あまり家族に負担をかけたくないなと。結果、配電盤メーカーの営業事務の仕事に就きました。

配電盤メーカーですか。まったくの異業種ですね。

はい。畑が違う会社に入社して、そこで3年間働きました。その後は1年間だけ日本ヴォーグ社という手作りクラフトの老舗会社に転職して、出版・企画・営業の経験を積んで石巻に戻ってきました。結果、6年間東京に過ごして、2017年の4月に石巻に来ました。

配電盤メーカーの3年が異色な経歴ですね。

そうですね。元々、震災以降に実家のお茶屋を継ぎたいと思っていました。ただ、「畑違いの会社を経験しないとお茶屋を継がせない」と父に言われて。父は他の仕事を経験せずにお茶屋を継いだので、おそらく思うところはあったんじゃないかと。「もっといろんなところを見て、それでもウチを継ぎたいと思うのなら継ぎなさい」という風に受け取っています。

なるほど、2代目からのメッセージ。石巻に戻ってからはどのようなことをされていますか?

新商品である和紅茶「kitaha(キタハ)」の営業をしています。「kitaha」は「石巻のもので石巻を元気にしたい」という父の思いから生まれました。石巻の桃生町で400年の歴史がある茶畑があります。その茶葉を使用しながら、若い方にお茶をもっと身近に感じてもらえるようなものを作れないかと考えて、たどり着いたのが紅茶なんです。東北初の和紅茶として2017年6月に発売を開始しました。


最初は「何で石巻に帰ってきちゃったんだろう」と思っていました。


 

若い方にお茶をもっと身近に、というのは、やはり若い方のお茶離れを感じていた。

お茶屋を継ぐことになったときに色んな人に聞いてみたら、ペットボトルのお茶を容器に移し変えて電子レンジで温めて飲んでいると。若い人はあまりお茶を淹れて飲まないというのを知って、これはいかんと思って。

これはいかんぞと。

そういうこともあって、最初は「何で石巻に帰ってきちゃったんだろう」と思っていました。石巻と東京の暮らしが違いすぎて嫌だったんですよね。家族ともぶつかったりもして。そして、仕事も最初は好きではなかった。

石巻も新商品も好きではなかった。今はそれが変わったのですか?

今は、石巻には石巻の良さがあるなと思うようになりました。ゆったりとした時間が流れていて、夜に空を見れば星がすごくきれいに見える。あとは、人がやっぱり温かいです。

見えていなかったことが少しずつ見えてきて、石巻の魅力に気づいていった。仕事に関してはどうですか。

「kitaha」に併せて新たにお菓子を開発することになって、私はそのプロジェクトに関わることになったんです。ただ、新商品の開発チームには、コピーライターや、デザイナー、フードコーディネーターなどの専門家の方がいて、その中で私はなかなか発言できなかったんです。「私はまだあさひ園の人間じゃない」「専門家じゃない」という気持ちがあって。一歩引いていたのですが、チームの方々がこの商品を皆に届けて、いかに幸せになってもらうかを真剣に話し合っていて。どんなに壁にぶつかっても諦めないんです。その姿に心を動かされて、火をつけられました。

そこから少しずつ発言するようになっていったのですね。日野さんが新商品を開発するにあたって大事にしたかった部分は何でしょう?

商品を手に取った方が温かい気持ちになることですね。利益も大事なのですが、そういうことを一番に考えていきたいと思っていて。ほっとしたいときに寄り添えるものになれたらと。商品パッケージにおいても手作りの部分があります。ひとつとして同じものがないところが私のお気に入りです。

手作り感が絶妙にマッチしているからこそ、洗練されたデザインでも無機質になりすぎず、ほっとするような感覚が生まれていると思いました。石巻に戻ってきて、2年。すでに色んな変化が起きていますね。

去年はじっくり様子を見る年でしたね。今後どういう風にしていこうとかと考える時間。今年は人との出会いが多くなりました。試飲会をして、バイヤーさんが来てくれて、新しい場所で販売してもらえるようになったり。

これまでのあさひ園のお客さんは、地元の方が多いですか?

そうですね。この辺りに住んでいる方が来店されることが多かったです。最近は県外からのお客さんも増えました。併せて出店のお誘いも増えて、多賀城、仙台、遠いところでは横浜など、今までにはない場所で試飲会をさせていただいています。

あさひ園というお茶屋さんは地域密着型のお店で、現在は外にもつながりの輪が広がっている。同時にあさひ園に加わった日野さんの輪も広がっている。

そうですそうです。


みんなの想いを大事にするためにも、私が次へとつなげていく。


多くの方と接していく中で、日野さんが意識していることはありますか?

無理にテキパキせずに、変に大人に見せずに、ありのままの私でいることですね。私は人に安らぎを与えられるような人になりたいと思っていて。このお茶で幸せになってくれたら、笑顔になってくれたらうれしい、というのがモットーですね。

商売の本質のように感じました。まずは相手を豊かにすること。

共に働く家族や従業員さんが、がんばってくれているのが大きいと思います。これが一人だとしたら、おそらくできないです。家族や従業員さんと一緒に茶摘みをして、父が車で静岡に運ぶ。加工してもらったものを持ち帰って、自分たちの手で詰める。みんなの想いを大事にするためにも、私が次へとつなげていく。

バトンパスのようですね。この商品が完成するまでにいろんな人が関わっている。日野さんにはそれが見えているからこそ、伝え方や想いのこめ方が違うんだろうなと思いました。これまでの話を踏まえて、自分がヒーローだとしたら、どんな性質だと思いますか?例えば好きなキャラクターとかは。

ぼのぼの、ドラえもんが好きです。その中でもおばあちゃんの思い出や帰ってきたドラえもんなど、心が温まる話が好きですね。

ハートフルですね。雑誌の紙や、ホッとするものなど、日野さんが好きなものは無機質なものではなく、温もりを感じさせるようなもの。温もりという言葉でイメージするものはありますか?

手作りですね。粘土細工と押し花の資格を持っているのですが、なぜか惹かれるものは機械で作ったものではなく、手で作ったアクセサリーや物に惹かれます。

ポイントは触覚、もしくは手なんですね。手があるからこそ紙の質感を感じられる。粘土をこねるのも、茶を摘むのも、人の手が加わっている。どこか温もりがあるもの。

そうかもしれません。温かくありたいと心が望んでいるからかもしれないですね。

翻訳するとハートウォーミング。心温まるを意味する和製英語。

では、私の技はハートウォーミングで。

とても優しい技ですね。ハートウォーミングをしつつ、今後どういう活動をしていきたいですか?

色んな方に「kitaha」を飲んでいただいて、温かい気持ちになってもらいたいという想いがあります。また、ゆくゆくは三代目として家を受け継ぐことになるので、既存のお客様を大切にしながらも、若い方たちに向けて「お茶って良いものなんだよ」と発信していきたいです。みんなを安心させられる存在になりたいと思っています。

日野さんは受け継いでいくヒーローだと思いました。三代目としてバトンを受け継いで、若い人たちにお茶の伝統や文化を伝えていく。受け継ぐという言葉には、どこか温かさを感じました。

そうですね!受け継ぐヒーローとして、今後ともよろしくお願いします。

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