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2020.3.26
no.34
佐々木 悠介
Sasaki Yusuke
農業を通してまちづくりに
チャレンジするドイツ帰りの
現代美術家

佐々木 悠介
Sasaki Yusuke

農業を通してまちづくりにチャレンジするドイツ帰りの現代美術家

1980年生まれ/宮城県小牛田町(現美里町)出身
B型乙女座/多摩美術大学工芸学科卒
石巻市地域おこし協力隊として(株)田伝むしに勤務


震災を直に経験していない自分が、作品発表することに疑問を感じた


 

さ) 地域おこし協力隊の一人として田伝むしで活動しています、佐々木悠介と申します。2019年9月に石巻へ来ました。

– なぜ、地域おこし協力隊に参加しようと思われたのですか。

さ)  震災が大きなきっかけですね。9年という長い月日が経ちましたが、自分の中で何もできていないなと思ったんです。宮城県の小牛田(現美里町)町の出身なのですが、震災当時は海外で生活をしていました。一時帰国した後に、単発的にボランティア活動をしていましたが、何かしたいなという思いがありました。偶然に、知り合いで地域おこし協力隊で活動している人が何人かいまして、話を聞いているうちに「いいな」と思ったんです。会社に就職するよりも、地域おこしなどの活動の方が、様々な方と出会いながら、まちづくりもできるんじゃないかなと。そんな期待があって、やってみようと決めました。

– 海外で生活をされていたんですね。どのようなお仕事を?

さ)  現代美術の活動をしていました。震災が起きてから、考え方や表現がすごく変わりました。震災後のまちであったり、自分自身の変化を美術で表現することで、復興の手助けができないだろうかと考えていました。ですが、震災を直に経験していない自分が、作品発表することに疑問を感じました。表現に責任がないというか、嘘だなと思ったんです。そんな思いもあって、時間は経ってしまいましたが、地域おこし協力隊という形で石巻に関わろうと。石巻のアート活動も面白いので、そういったところで魅かれたというのもありますね。


農業もクリエイティブで、まちづくりでもある


 

– これまでは現代美術、現在は農業。大きく活動の分野が変わりましたね。

さ)  2017年まではベルリンにいたのですが、その頃から農業に興味を持っていたんです。自分たちで食べるものを作れたらと思い、ドイツの田舎町に引っ越しをしました。最初は野菜を売っていこうと考えていたのですが、ちょうどいい広さの土地がありませんでした。なので、まずは木を切ったり、草を抜いたりして、開墾するところから始めました。ただ、農業に関しては素人だったので、まずは、本場で勉強して経験を積みたいと思いました。田伝むしは無農薬で農業をしています。私たちも完全無農薬で野菜を育てていましたので、自分の思いと活動の場がうまく合致して今に至ります。

– すでにドイツで農業はされていて、もっと深めていきたいという思いがあった。それに加えて、震災との関わり方を模索していた。それが地域おこし協力隊に繋がったのですね。

さ) そうですね。今は美術作品を作ってはいないのですが、農業も考えようによってはクリエイティブですし、まちづくりでもあります。農業に本格的に携わらせてもらってから、日常の街や風景の見方が変わりました。農家は作物を育てるのはもちろんですが、それを育てる場所作りや管理も行っています。つまり、農家は作物とともにその土地の景色を作り続けています。一次産業の手伝いをさせていただきながら、こういう町に住みたいな、こんな町になったらいいな、という思いを込めて少しずつ活動していきたいなと思っています。


消費するだけではなく、循環させていくような生活がしたい


 

– 現在、田伝むしさんで活動されていることを伺ってもよろしいですか。

さ)  今は米作りや展示商談会をメインに活動しています。田伝むしでは米の輸出もしているので、海外バイヤーとの商談会も行います。これからは田植えが始まります。田植えの時期は全く経験したことがないので楽しみですね。

– 現在の活動をふまえて、今後はどのような取組をお考えですか?

さ)  環境問題に興味があります。具体的なアイデアはまだないのですが、どういう街に住みたいかを絵で描いたりしていました。私たち家族が、こういう街で生活をしたいというイメージがあります。自分たちで野菜を育てたり、鶏を飼ったり、エコで循環型農業のような。米や野菜を売って生計を立てたいとは思っていないんです。そういう生活をすることによって、周りにも影響を及ぼしていきたいなと。

石巻では、プラスチックを分別せずに燃えるゴミで出せますよね。東北は環境問題に関して、よりシビアに取り組む必要があるのではないかと思うんですね。自然災害に対抗する防潮堤を作るだけではなくて、様々な分野において。海外から注目されているポイントだと思うんです。消費するだけではなく、循環させていくような動き。それは自分が出したゴミが、この後どうなるのかを考えてみるだとか、少しのことでもいいです。自分の活動を通して、それはいいねと感じてくれる人がいたら嬉しいです。


ドイツ発祥のクラインガルテンというカルチャーを石巻にも


 

– 自分ができることをして、それが周りに良い影響を及ぼしていく。

さ)  そうですね。石巻には海もあるし、山もあるし、自然を活かした魅力を作ることができれば、もっと人が訪れるようになると思います。ドイツには“クラインガルテン”という市民農園があるんです。自然が好きで、週末は都会の喧騒から離れて、ゆっくり過ごしたいと考えている人向けのセカンドハウスです。都市部にあるので、電車などでも行けるようになっています。私も自分の住まいで庭いじりをしたいと思っていて、石巻でもそのような物件を探したのですが、なかなかないんですね。こういう場所というかカルチャーも作りたいですね。

– 庭を借りるというイメージなのでしょうか。

さ)  そうですね。ゆっくり庭の手入れをしながら、週末を過ごすイメージです。コミュニティ形成にも繋がると考えています。建物や土地をしっかりと管理をしなくてはいけないですけれど。ドイツではとても人気で、なかなか借りることができないくらいです。これが答えだとは思っていないですけれど、現時点での理想です。


自然と共和する街を作っていきたい


 

– 理想に向かって、今後の意気込みをお聞かせください。

さ)  無農薬製品や農産物をどのような工程で、また、どのような想いで作っているのかを、もっとお客様に伝えていきたいですね。完全無農薬を選んでいるからといって、農薬を全否定したいわけではないです。農家の方が苦労しているのはわかりますし、人手不足を補うための農薬なので、それは理解できます。ただ使いすぎるのは良くないのではないかなと。難しいですが、自然と共和する街を作っていきたいですね。

– 自然と共和する街ですか。

さ) ドイツでは日曜日はお店が休みになるので、皆、散歩に出かけたりします。あとは自転車ですね。散歩しながら話をしたり、自転車で川沿いを走ったり、山に遊びに行ったり。自然を楽しみながら、ゆっくりとした時間を過ごす。子供から、年配の方まで、体を動かしながらコミュニケーションを取る、そういう光景を少しずつ増やしていきたいですね。

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