HEROS

2021.2.15
no.42
奥堀 亜紀子
Okubori Akiko
暮らしの中でこぼれ落ちる
感情や疑問を拾い上げる
研究者

奥堀 亜紀子
Okubori Akiko

暮らしの中でこぼれ落ちる感情や疑問を拾い上げる研究者

1982年生まれ/岐阜県出身
哲学研究者/詩人


本を読んで考えるだけの哲学は、思考の限界なのではないか


2017年8月に、大学の特別研究員として石巻に滞在し始めました。2020年4月からは、正式に石巻に移住して、研究機関に所属しない在野研究者として活動しています。また、羽黒町にある「みち草工房」の一角を書斎として借りて、「LIFEWORKERS」という名前で詩人として製作活動もしています。

– 製作活動をはじめられたきっかけはなんですか?

活動の原点は京都にあります。2005年に大学を卒業して3年間、京都のカフェ、書店を中心に詩集「LIFEWORKERS」を配布していました。書いていたのは詩とイラストでした。その後、哲学の研究生活がスタート。「自身の詩を論理化するため」ということが目標でした。京都、大阪、神戸、そしてイスラエル。思ってもみなかった場所に住むことになり、思ってもみなかった人間模様を目の当たりにした、紆余曲折、波乱万丈な10年でした。

– そして、石巻にも住むことにもなったんですね。

石巻に来たのは、たくさんの人が津波にのまれていく姿をメディアで見て、そこから何か考えることがある気がして、その感覚が忘れられなくて。過去、記憶、郷愁について勉強してきましたが、本を読んで考えるだけの哲学は思考の限界なのではないかと思い始めていました。


町で暮らす人たちを知らないまま研究をするのは嫌だった


– 本を一度置いて、実際に町に訪れてみようと。

はい。ただ、石巻に来てからの数カ月、ニュースで聞いていた東日本大震災や復興の話は、この町のどこに当てはまるのかが全く分からなくて。自分が何を考えるためにこの町に来たのかも分からなくなりました。町で暮らす人たちの、生活、人柄、感情を知らないまま研究をするのは嫌でした。

– この町のことを、もっと丁寧に知っていきたいと感じたんですね。

そうですね。なので、春からの生き方として選んだのは、大学の研究員という立場ではなく、ただ大事な人たちと暮らしていくということでした。石巻でご飯を食べて、仕事をして、眠って起きる。震災前から石巻の人たちがそうであったように。自分もこの町で暮らしていく中で、自分の経験した感情を含めて、研究を続けていこうと。死の哲学は生の哲学へと転ずる可能性をもっている、これが石巻での3年間の研究員生活で気づいたことでした。そしてようやく2020年10月、「LIFEWORKERS」を再開させることができました。


暮らすとは、町の歴史、文化、そこで生きる人たちの価値観を知っていくこと


– 石巻の街のどういうところが好きだと感じますか?

「いつご飯食べに来る?」いつの間にか家族のようになっている家が石巻市湊町にあります。私はその家族のことがとても大事だなと思っています。ご飯を一緒に食べていると、その空間がとても愛おしい空間だと思えてきます。こういった関係性が互いに築き合える、そんな価値観が今も残っている石巻が好きです。どんな町にもあるのかもしれないですが、私にとっては、石巻の町を思い出すと浮かんでくる、少し寂しいような、あたたかいような日常の風景が心地よいです。

– 今後の目標や抱負がありましたら教えてください。

詩集「LIFEWORKERS」を年に2回、9月と3月に刊行していきたいと考えています。完成した詩集は、「石巻まちの本棚」に置かせていただく予定です。研究活動は、気の合う仲間たちとの共同研究がいくつか進んでいます。これまでの研究生活がどこへ向かうことになるのか、集大成に向けて歩むための基盤を作っていくことが直近の目標です。

– 暮らしていく中に、「当たり前」になる手前のものたちがあふれているんですね。

そうですね。暮らしていくとは、身を置く町の名前、海、川、山などの地理の歴史、隣接した町の文化、そこに生きる人たちの価値観を知っていくことだと思っています。暮らしていく中で自分の生活が習慣化されていく。そこに何らかの感情が生まれてきたり、疑問が湧き上がってくる。それらの疑問を掘り下げて文章にしていくこと、絵に表わしていくことが自分の仕事だと思っています。

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